あなたと私のカネアイ
 このもやもやは、一体何だろう。
 私は怒ってて、それを感じ取った円が謝るのは不自然ではない気もするけど、でも、だったら最初から私が怒るような内容を持ちかけなければいいのに。
 すぐに引いてしまう彼は、私を説得するでもなく、かと言って諦める様子もない。何度も同じような話題を持ち出してくるということは、少しずつ私を懐柔しようってことなのだろう。
 いっそ私も思いきり反論できたらスッキリするのに。でも、向こうが引いてるのにイライラをぶつけてしまったら、ただの八つ当たりになってしまう。
 ああ、これもだ。
 変なところで遠慮が出てくる自分の思考にため息が漏れる。私の幸せは結婚という出来事から今まで確実に、大量に逃げて行ってると思う。

「もういい? 私が朝弱いの知ってるでしょ」
「待って。寝る前にひとつだけ聞きたいことがある。結愛が愛を信じないっていうのは、過去の恋愛が原因なの?」

 はぁっと、また幸せが逃げた。
 もぞもぞと身体を捩って円の方を振り向くと、円は真剣な顔をしてて、オレンジ色の光がなんだかそれを際立たせて少し怯む。
 非日常というのは心臓に良くない。
 私は一度深呼吸をしてから口を開いた。

「円は幽霊を信じるの?」
「へ……?」

 私の問いに、夫はまぬけな声を出して口を開いたまま私を見つめている。それがちょっとおかしくて、私の心は少しだけスッキリした。
 なんとなく、仕返しをしてやった気分。

「信じるの?」
「いや……俺は所謂見える人種じゃないし、仮に幽霊がいたとしても気づけないからよくわからないっていうか、実感がないっていうか……」

 円は少し困ったような表情で答える。
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