あなたと私のカネアイ
「同じでしょ? 見えないのに何の根拠があって愛を信じなきゃいけないの。そこにあるかどうか自分ですら確認できないのに、好きとか愛してるとかいう言葉に流されて結婚して、結局そこにあるのは何って話」

 こういうとき、普段から思ってることはスラスラと言葉になって出てくる。円が何か言おうと口を開きかけたけど、それを遮るように続けて喋った。

「愛があるからセックスして、子供作って? その愛(こども)を育てるのには何が必要か、わかるでしょ? お金が必要なの。医療費やら学費やら、生活費だってちゃんとかかる。結局、お金がかかって仕方ないとか文句を言うようになって、口を開けば金、金、金……って」

 本当にイラつく。
 この世界で人間が生きていくためにはお金が必要なの。そんなの常識なのに、後から文句を言うのは反則でしょ? 
 愛を結んで生まれた子供には、お金がかかってしょうがない。
 だったら最初から――…

「そこにあったらしい愛はどこに行ったんだろうね?」

 言いたいことを一気に捲くし立てて、私はまた円に背を向けた。
 はぁ、スッキリした。慣れない場所で、しかも男の人――円――の隣で眠れるか少し不安だったけど、心配なさそうだ。

「結愛」

 その呼びかけには答えなかった。これ以上は体力と精神力の無駄だ。
 私は説明義務を果たした。相手の言い分を聞いていないのはずるいかもしれないけど……わからない人に、いくら丁寧に根気良く話したところで理解能力を超える部分を刷り込むのは不可能だ。
 だから、私は一生円の主張を理解できないだろうし、彼が私の主張を理解してくれることも期待してない。平行線のまま――それが一番、両者にとっての平和的解決だと思ってる。
 私がだんまりを決め込むと、円はもう一度「結愛」と私を呼ぶ。
 私の大嫌いな名前。
 そんな名前で呼ばれても、距離なんて縮まるわけがないのに……

 私はルームウェアの胸元をぎゅっと握って、目を瞑った。
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