あなたと私のカネアイ
 運ばれてきたウイスキーを一口飲んで、円さんはフッと息を吐いた。
 頬杖をついて私を見つめる表情は先ほどから変わらない大人な微笑み。
 確か……三十一歳、と自己紹介のときに言ってたと思う。私服のせいか若く見える。まぁ、さっき会ったばかりだから、フォーマルな格好なんて見たことがないんだけど。
 白いジャガーカットソーにダークグレイのカーディガン、ストールを嫌味なく着こなせるのって意外に難しいと思っていたけど……円さんにはよく似合っている。
 今は座っていて見えないけど、下はベージュのチノパンに、足元まできちんと気を遣っていて本革の靴を履いてた。

「それで、いつ結婚しようか?」
「は?」

 円さんのファッションチェックをしていた私は呆けた声を出してしまった。
 結婚――?

「結婚の条件、満たしてたでしょ? 俺」

 それは……そうだけど。

「あの……酔ってますか?」

 自己紹介だけで抜け出てきてしまったようなものだから、居酒屋ではほとんど飲んでいないし、ここでもウイスキーを一口飲んだだけだ。酔っているようには見えないが、一応聞いてみる。

「まさか。俺、酒は強いよ」
「そうですか……」

 それなら、冗談?

「来月、ちょうど六月だけど……ジューンブライドとか、こだわる? 今からだと準備も忙しくなると思うけど、知り合いにホテル経営してる奴がいるし融通してもらえると思うよ。ドレスは――」
「いや、ちょっと、待ってください」

 私は右手を円さんの顔の前に突き出すようにして止める。
 何だろう。これは三つの条件を笑顔で受け止める男がこの世にいるわけがない、と高をくくっていた私に非があるのだろうか?
 確かに、合コンで自己紹介ついでに条件を突きつけた。
 私が今の生活を謳歌していて、私のために使うお金を持たない鬱陶しい彼氏探しにきたわけではないのだと告げて、一線を引きたかったから。
 それなのに、いとも簡単にその線を乗り越えてきたこの宇宙人に調子が狂う。
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