優しい手①~戦国:石田三成~【短編集】
「桃、村が見えて来たよ」


途中クロを休ませたり小川で遊んだり、のんびりしつつ一泊する宿についた桃は、多くの旅人が行き交う村が見えて来て歓声を上げた。


「わー、着いたー!ねえ謙信さん、宿はこれから決めるんでしょ?クロも一緒に泊めてくれるとこを…」


「さすがに君やクロを雑多な旅籠屋に泊めるつもりはないから、1番大きな旅籠屋にしようか。ここからは歩こう」


…よくよく考えれば上杉謙信という日本を背負っていたといってもいいほどの男がこんな小さな村をてくてく歩いている様はおかしな光景だったが、本人はそんなことはお構いなしに楽しそうにしている。


「あ、桃、反物屋もあるよ。ちょっと後で寄ろうか。気に入ったものがあれば買ってあげるよ」


「え?でも…何も要らないよ?この袴可愛いし…」


「うん、実は寄らなければならない理由があるんだ。まあそれは旅籠屋を決めてゆっくり腰を落ち着けてから話すよ」


肩を竦めながら何かを隠している言い方をした謙信の袖をきゅっと握って頷いた桃は、手綱を引かなくても勝手について来ているクロの鼻面を撫でつつ周囲の反応を観察した。

クロはとびきりの軍馬だし、謙信は明らかに平民ではないという雰囲気に加え、男でも見惚れてしまうほどの中性的な美貌の持ち主だ。

でも手はとても大きくて優しくて…ついもじもじしてしまった桃の手を引っ張ってある旅籠屋に入って行った謙信は、手を揉みながら出てきた老人の男主人に笑いかけて、手に少し重たげな白の巾着袋を乗せた。


「1番良い部屋を。食事以外の出入りは必要ない。連れて来ている馬の世話だけしてくれればいい」


「はっ、はい、畏まりました!おい誰か、この方々をご案内しなさい!」


遠巻きに謙信を熱い視線で見つめていた女中連中が挙って現れると、皆が皆愛想笑いを浮かべて謙信に気に入られようとする。

どこに行っても同じだなあと呑気に考えながら少し離れて歩いていると、謙信が引き返してきていきなりひょいっと抱きかかえられた。


「きゃあっ!?ちょ、謙……」


「私の奥が疲れているようだから場所だけ教えてもらえれば後は私たちだけでいい。いいね?」


流し目で微笑されると、完全に陥落した女中たちはふにゃふにゃになって頷いた。


「…謙信さんの女たらし」


小さな声で呟くと、笑って頬ずりをされた。
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