優しい手①~戦国:石田三成~【短編集】
1番良い部屋とあって、部屋は床の間と食事や窓からの風景が楽しめる座敷の続き部屋で、畳も新しいし調度類も清潔感溢れるもので、窓の板戸は開けられていたので眼下を覗き込むと、往来を歩く人々が見えた。


「謙信さん、このお部屋いいね!綺麗だし、畳の匂いも好きっ」


「いい宿にあたったみたいだねえ。ちょっと寛いだらさっきの反物屋に行こうか」


謙信がやけに反物屋にこだわるので、隣に立って大きく伸びをしている謙信を見上げた桃は、目が合うと思いきり首を傾けて理由を訊ねた。


「着替えが欲しいの?だからちゃんと荷物は詰めて行こうって言ったのに」


「うーん…そういうわけじゃないんだけど…」


「ちゃんと理由を話してくれないとわかんないよ。ね、謙信さん座って」


「桃、私たちが目指す村に着くまでは私の名は呼ばない方がいい。そうだなあ…たとえば“あなた”とか言われるとすごく燃えるんだけど」


「あ、うんそうだねごめんなさい。…あなた?な、なんか…すごく照れるんだけど…」


にこっと笑った謙信に手を引かれて窓の近くに膝を抱えて座った桃と同じポーズで座った謙信は、少し垂れた瞳を緩めて桃の肩を抱いた。


「実はその村なんだけど…男子禁制なんだ」


「え!?じゃあ…謙信さんは村に入れないってこと!?」


「つまりそういうことなんだ。だからどうにか変装しないとと思ってね。あの村には私と桃が揃って行かなければいけないと思うんだ。だから…ね?もう言わなくてもわかるよね?」


しばらく考えた桃が出した結論は、たったひとつ。

それは…


「謙信さんが女装するってこと!?」


「当たり。一応下調べをと思ってね。ここでは買わないけど、次の村から目的地までは目と鼻の先だから、そこでちょっとした打掛を用意して、一緒に輿に乗って行こう」


――謙信が化粧をして女装している姿を想像した桃の頭に浮かんだのは、謙信の姉である仙桃院の姿だ。

全くもって違和感はなく、逆に早く女装した謙信を見てみたくなった桃は、お茶を飲もうと湯呑に手を伸ばしかけた謙信の腕を掴んですくっと立ち上がった。


「今すぐ行こ!試着もさせてもらお!変に思われたらこの人はこういう趣味なんですって私が弁解してあげるから!」


「ふふっ、はいはい、じゃあ今から行こうか」


底抜けに明るい桃に手を引かれてゆっくり立ち上がった。
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