優しい手①~戦国:石田三成~【短編集】
前世の自分たちは、一切触れ合うことはなかった。

ようやく触れ合えたのは最期の夜――炎に包まれたお堂に謙信が飛び込んできて運命を共にしたあの時だけ。

抱きしめ合っただけのあの瞬間だけ。


前世で悲恋に終わったためか、謙信は身体によく触れてくる。

春日山城では三成の目もあるため、謙信が気を遣ってべたべたしてくることはあまりないのだが…

今はここぞと言わんばかりに肩や腰に触れてきて、落ち着かない。


「さっきからそわそわしてるけど、どうしたの?」


「どうしたって…謙信が触ってくるから…」


「三成が居ないからねえ、こういう時ばかりは触れるだけ触っておかないと。ほら着いたよ、色々見ておいで」


反物屋に着くと、店内は所狭しと雅な色や柄の反物が並べられていた。

髪飾りや帯、可愛らしい下駄などは見ているだけで楽しくて、つい浮かれてうろちょろしているうちに謙信を見失ってしまった。


「あれ?謙…あ…あなた?どこに居るの?」


「奥方様でいらっしゃいますね?今旦那様はお着替えを…。大変美しいお方で驚いてしまいましたわ」


「え??」


声をかけてきた若くて美しい女主人が頬を染めて桃を案内したのは店の奥の方で、試着室と思われる部屋に通されると、後ろ姿がとても美しい女性が立っていた。

後ろ姿だけでも美しいと感じるので実際はもっと綺麗なのだろうと思った桃がほう、とため息をついていると――銀の刺繍が入った白い打掛姿の女性が振り返る。


それが誰だかわかると、桃の口は、あんぐり開いたまま閉じなくなってしまった。


「え……っ?嘘!!すっごく綺麗!」


「どうかな、似合ってる?」


完璧主義の謙信は付け髪もしてもらっていて、どこからどう見ても…少し垂れ目な美女だ。

しゃなりしゃなりと近付いて来て目の前に立たれると、見上げなければならない上背にも関わらず、しっかり紅まで引いている謙信に見惚れてしまった桃は…思いきり唇を尖らせた。


「ひどいよ!男の人なのに女の人より綺麗なんて!」


「一度思いきり女子の格好をしてみたかったんだ。でも私は君の方が綺麗だと思うよ」


手を引き寄せられて甲に口づけをされた桃は、真っ赤になりながら謙信の肩を突いて離れさせると、また肩を抱き寄せられて呆れながら女装した謙信の化けっぷりに爆笑した。
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