優しい手①~戦国:石田三成~【短編集】
笑いが止まらなくなってしまっていた桃は、試着した打掛など一式を返すと外に出て桃の腰を抱き寄せて往来に出た。

そこで桃は気付いてしまった。

謙信が帯刀していないことに。


「ちょ、ちょっと…あ、あなた…刀はどうしたの?」


「そんな物騒なもの持たないし、危ないことも起きないよ。ま、いざとなればそこかしこに軒猿が居るから大丈夫大丈夫」


…なんとも楽観的。

時々団子屋に寄って桃にたらふく団子を食べさせたり、甘味屋に寄って汁粉やお茶を飲んだり――

普段謙信が春日山城ではあまりできないことを全て体験しようと言わんばかりにはしゃいでいる様は可愛らしく、また謙信にこんな自由な時間が今まであったようでなかったことを知った桃は、一緒になってはしゃぐことにした。


「ねえあなた、次はどこに行く?お腹いっぱいだからクロちゃんとどこかに出かける?」


「うーん、そうだねえ…。よし、じゃあ村の裏手に土手があるみたいだから、そこで休憩しようか」


「うん!じゃあおやつ買ってこ。私あんみつがいいな」


「ふふ、さっき沢山食べたのにまだ食べるの?いいよ、買ってあげるから私に膝枕をしてね」


先程白い着物と濃紺の帯を買って着替えていた謙信だったが――悪目立ちしている。

男なのか女なのかと飛び交うひそひそ声も聞こえるし、男でも構わないから声をかけたいと言っている男の声も聞こえる。


自分は女で謙信の隣を歩いているのに、負けた気分になった桃はぷんむくれして足早に謙信の前を歩く。


「桃?そんなに急いでどうしたの?」


「知らないっ。もうあんみつはいいから土手に行こ」


「そうはいかないよ。夫婦喧嘩というのもいいけれど、私には何もかも打ち明けてもらわないと」


――人前にも関わらず、ひょいっと桃を抱きかかえて悲鳴を上げさせた謙信は、周囲の視線にも全くお構いなしに甘味屋へ突入して店員ににっこり笑顔を向けた。


「あんみつを2つ、私の奥の手に持たせてくれるかな」


「は、はいっ、ただいま!」


上品で気品のある謙信に笑みを向けられた女の店員は昇天しそうになってよろめきながら慌てて用意を始める。


「土手でゆっくり理由を聞かせてもらうからね」


「…言わないもんっ。謙信さんの馬鹿」


小声で桃に毒づかれた謙信は、笑いながら肩を竦めて腕に抱いたままの桃の額に口づけをした。
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