優しい手①~戦国:石田三成~【短編集】
土手から見た夕暮れは、太陽がぼやけて沈んでいく様が美しくて見惚れてしまった。

隣に座っていた謙信が次から次へと口にあんみつを運んでくるのだが――味もどうだったかわからないほどにぼうっとして、謙信に頬を撫でられた。


「どうしたの?」


「綺麗だなって思って。お城からの夕暮れもすごく綺麗だけど…ちょっと謙信さん。こんなにあんみつ食べたら夜ご飯食べれなくなっちゃう」


「そうそう、桃はその調子でないとね。この辺りは海産物が美味しいらしいよ。桃が食べれなかった私が全部食べてあげようかなあ」


「駄目!謙信さん、戻ろ。お風呂入って準備しなきゃ」


「温泉が湧いてるらしいから一緒に入ろう。うん、そうしよう」


…また謙信に詰め寄られる形になってしまい、意気揚々と立ち上がった謙信を何とか止めようとするが結局それは無理な話で、笑顔を絶やさない謙信の前に立ちはだかって両手を広げた。


「私!ひとりでゆっくり入りたいんだけど!」


「うん、ゆっくり入ればいいよ。私は君の隣でゆっくり入ってるから」


「あ、あのっ、そういう意味じゃなくって……」


「私を止められるとでも思っているのかなあ?桃、それは間違いだよ。私たちは離れないと誓ったし、その制約を私は破るつもりはないしね」


にっこりすぎる微笑に押されまくりの桃は、優しく手を取って温泉に向かう謙信の脚を止められず、村の左側に広がる温泉が密集している場所へ着くなり老人の男の管理人に小金ならぬ大金を握らせた。


「人が来ないような山奥の温泉を」


「ちょ、あ、あなた!」


訳知り顔の管理人ににやりと笑われて手拭いを渡された桃は、地図を広げて温泉の場所を確認している謙信の着物の袖を何度も引っ張って抗議。


「な、何するつもりっ?」


「温泉に入るだけだけど…それ以上何をご所望かな?」


「別に…別に何もご所望じゃありません!」


「顔が赤いなあ。どうしたのかなあ」


からかわれ、口をもごもごさせている桃の手をしっかり握った謙信は、山の奥へ奥へと向かいながら微笑を湛えて囁いた。


「今までできなかったことを全てする。桃、楽しい旅になりそうだね」


悪びれもせずにっこり笑って桃を凍り付かせた。

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