優しい手①~戦国:石田三成~【短編集】
三成と離れていることは寂しかったけれど、とにかく謙信が笑わせるのでしまいには腹筋が痛くなってしまっていた。

山奥にある温泉に入った時も珍事が起きて、山猿が先にのほほんと入っていて、謙信はそれを追い払いもせず逆に呼び寄せて頭に手拭いを被せてしまう。

後で聞いた話によれば、温泉に入りに来る山猿は以前から居たようだが、人の気配を感じるとすぐ逃げてしまうのだと管理人に言われて思わず桃はなるほどと納得してしまっていた。


「謙信さんって馬に話しかけるし、猿と友達になっちゃうし、ほんと不思議な人」


「そうかなあ?越後は獣が多いし、むやみに殺生してはいけない。ほら桃、背中を擦ってあげようか」


…恥ずかしがって何とか身体を隠そうとしても、結論を言えば謙信には何度も全てを見られているので、開き直った桃は手拭いで身体を隠さず謙信に背中を向けた。


「私時々前世の自分の夢を見るの。ここ最近はすごく鮮明で…謙信さんもそう?」


「私は桃がこの時代へ来ると毘沙門天から聞いた時にじわじわと思い出して、最近はより鮮明になって…その場所へ行かなければとずっと思っていたんだ。見つかってよかった」


優しい手つきで背中を擦られながら、何故か隣に座った山猿の頭に乗っている手拭いを取って身体を擦ってあげると、数珠つなぎになって謙信の笑みが零れる。


「前世の謙信さんは毎日会いに来てくれて…でも言葉を交わすのが精いっぱいで、でも会いに来てくれるのを毎日楽しみにしてたよ。知ってた?」


「うん、知ってたよ。前世の桃だった女子に一目惚れしてからは毎日通って通い詰めて…放蕩息子だった私はそれは散々周囲から叱られたものだ。だけど会いたかった。恋とはそんなものだよ」


恋――

淡くも儚く、桜のように散っていた恋。


つらかった恋心はひとりであの世へ持っていくには寂しくて、そんな時に業火の中に飛び込んできた愛しい人との最期を遂げることができたのは、最上の喜びだった――


「もう…近いんだよね?女装するのはいいけど、私より綺麗になったら怒るから」


「ふふふ、気を付けるよ。一緒に供養をして、城へ戻ろう」


ざぶんとお湯の中に潜った桃を追いかけて一緒に潜った謙信は、毘沙門天が遣わした奇跡の女を抱きしめて唇をねだった。
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