優しい手①~戦国:石田三成~【短編集】
部屋に戻ると、床の間にはすでに床が敷かれていた。

しかも…一組。

当然のことだけれど、何故だかそれを生々しく感じて床の間の入り口で立ちどまってしまった桃の肩を押して中へ入らせた謙信は、桃の額を指でつんと突いた。


「何を緊張しているのかな?本当に今さらなんだけど」


「そ、そうだけど…でもほらっ、今からご飯食べなきゃ!ご飯ご飯っ」


先程饅頭やあんみつをたらふく食べた後なのだが、桃の別腹を知っている謙信は、座敷部屋に戻って良い香りのする畳に寝転がって寛いだ。


「そろそろ来るんじゃないかな。それよりも桃…もしかして三成が居なくて寂しいとか思ってない?」


「えっ!?そんなこと…ないよ」


「君は嘘をつくのが苦手だなあ。私と三成は君の夫なのだから、寂しくないわけがないでしょ。もし本気なら三成とは離縁して私だけに…」


「寂しいです!」


謙信の枕元にぽすんと座ると、謙信はずりずりと身体を引きずって桃の膝枕にあやかって頬ずりをしながらくすくす笑っていた。

…結局のところ、謙信か三成かどちらかを選べなかった末での決断なので、寂しくないわけがない。

桃が唇を尖らせると、謙信は頬を緩めて桃の唇を親指と人差し指でつまんでからかった。


「問題は兼続と幸村なんだよねえ。いつ気付くことやら…。私は隠し通せる自信があるけれど、桃はどうかな?」


「私も頑張るけど…でももしばれたらどうするの?私追い出されちゃうんじゃ…」


「そんなことはさせないよ。もし桃を追い出すつもりなら私は身分を捨てて君と駆け落ち。いいなあ、きっと燃えるよね」


のんびり口調で言われても全く心に響かないのだが、つい笑ってしまった桃は部屋の外で聞こえた女中の声に顔を輝かせた。


「夕餉をお運びしてもよろしいでしょうか」


「どうぞどうぞ!けん……あなた、起きて。ご飯!ご飯!」


「ええ?私はこのままでいいよ。食べさせてくれるでしょ?」


「え!?」


驚いているうちに次々と料理が運び込まれてしまい、完全に仲睦まじい夫婦の光景という感じで恥ずかしくなった桃は、謙信の額を叩いてすっと立ち上がり、謙信の頭がごつんと畳にぶつかった。


「痛いなあ。照れなくてもいいのに」


「いいから!ご飯ご飯!」


男より食い気。

いかにも桃らしく、謙信はわざと頭を撫でて痛がりながら桃の隣に腰を落ち着けた。
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