優しい手①~戦国:石田三成~【短編集】
左京は足音を忍ばせて戸を開けて中へと入る。

先程の女が巫女だとしたら、明日からはあの毘沙門堂に籠もって日々を毘沙門天に祈りを捧げて生きてゆくのだ。

そして俗世から隔絶された世界で、他者と会わず、言葉も交わさず…もちろん自分とも言葉を交わさず生きてゆくのだ。


「どうしてあの人が供物の巫女に…?」


選ばれる基準は、容姿が美しく心も清らかで純血の乙女であること。

全ての基準を満たした女であるということだ。


しかしそこまで美しく、何故自分の目に留まらなかったのか。

それは――嫁取り問題に悩まされることが嫌で、この村の女に目もくれなかったからだ。


「そんな…そんな馬鹿な……」


胸から妙な音がする。

ざわざわ、ざわざわ……

血潮が熱く巡って、どうしても今会って話をしなければと思い、客間まで早足でたどり着くと、襖の向こう側から父の声が聞こえた。



「噂通りに美しい。そなたが供物の巫女となった暁には、そなたの親御の心配はしなくとも良い。私たちで新たな家と仕事を与えて、何不自由なく暮らしてもらう。…そなたの分まで」


「…はい。私を選んで頂いたこと、感謝しております。父と母を…よろしくお願いいたします」



――その声だけで、背筋がぞくりと震えた。

指先が勝手に震えて、脚にも震えた来た時――左京は問答無用で襖を開けて客間の中へと乱入する。


「きゃ…っ!?あ、あなたは……?」


「君が……供物の巫女なのか…?」


「これ左京!今大切な話をしているのだ。出かけたのではなかったのか」


「君が、供物の巫女なのか?」


繰り返し問うと、粗末な着物を着ていてもなお美しさの揺るがない女はどこかぽかんとした表情をしつつも頷く。


「何の取り柄もない私を選んで頂いて…感謝しております」


「…嘘だ。君は死ななければならないんだぞ。感謝なんかするはずがない!」


「左京!」


父に窘められてもなお左京は撫子をじっと見つめて本音を言ってくれるのを待ったが――

撫子はふんわりと笑みを浮かべて首を振った。


「きっと…私の運命なのです」


そんなはずない。

左京は何度もそう繰り返して、使用人たちに取り押さえられて客間から連れ出された。
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