優しい手①~戦国:石田三成~【短編集】
「ただいま戻りました。これを見て。庄屋様に頂いたの。今夜はご馳走ね」
撫子の両親は絶句して、籠に詰められた山海の幸を見つめた。
…撫子が人身御供になる代わりに得た食料だ。
こんなもの食べたとしても味もわからないだろうし、果たして喉を通ることができるのだろうかと思いながら、撫子の喜びに応えた。
「これはすごい。撫子や、今夜は皆で楽しく食事をしよう。野良仕事はもう切り上げた」
「明日からは庄屋様がお父様たちのお仕事のお世話と新しい家を用意して下さいます。もう野良仕事はしなくていいの。本当に良かった」
早速準備に取り掛かった撫子は、背中に両親の視線を感じながら潤む瞳を拭って包丁を手に取る。
鯛など…こんな生活をしていては到底手に入らない高級の代物だ。
こんな生活から抜け出したいと思っていたことは事実だがその方法がわからず、貧しい暮らしをさせてしまっていることを案じてもいたので、幸運に恵まれたとも思っていた。
これでいいのだ。
これで――
「お前はほんとうに…これでいいのかい?」
「もちろん。それに私が断れば他の人が犠牲になるわ。私は取り柄もないし何も持ってないから…これでいいの」
「……そうかい…。だがお前に取り得がないなんてとんでもない。お前は村で1番美しくて器量よしだから、選ばれたんだよ」
励ましてくれる両親と一緒に居られるのは今夜まで。
撫子はてきぱきと手を動かして様々な料理を作ると、ささくれ立っている畳の上に並べてにこやかに笑った。
いつの間にか夜になり、時間は刻々と過ぎてゆく。
明日は早朝から迎えがここにやって来ると聞いていたので、せめて今夜は両親が眠たいと言うまで起きていようと釜戸に火を入れた時――外で馬の嘶く声と蹄の音がした。
何事かと戸を開けた撫子は、思いも寄らぬ人物の来訪に顔を強張らせる。
「撫子…と言ったか。ここが…君の家?」
「…は、い…左京…様」
「左京でいい。少し話がしたいから外に出てくれないかな」
柔和な面立ちで、いかにも金持ちという出で立ちと雰囲気の男。
撫子は心配する両親を気遣って戸を閉めて外に出ると、深々と頭を下げた。
「いけません。私は供物の巫女となる身。左京様…もうお会いするのは…」
「私は君に会いに行く。こんなこと、間違っているんだ。人身御供を望む毘沙門天など私は信じない。明日、会いに行く。明日も明後日も」
力強く優しい言葉に、心惹かれる。
撫子の両親は絶句して、籠に詰められた山海の幸を見つめた。
…撫子が人身御供になる代わりに得た食料だ。
こんなもの食べたとしても味もわからないだろうし、果たして喉を通ることができるのだろうかと思いながら、撫子の喜びに応えた。
「これはすごい。撫子や、今夜は皆で楽しく食事をしよう。野良仕事はもう切り上げた」
「明日からは庄屋様がお父様たちのお仕事のお世話と新しい家を用意して下さいます。もう野良仕事はしなくていいの。本当に良かった」
早速準備に取り掛かった撫子は、背中に両親の視線を感じながら潤む瞳を拭って包丁を手に取る。
鯛など…こんな生活をしていては到底手に入らない高級の代物だ。
こんな生活から抜け出したいと思っていたことは事実だがその方法がわからず、貧しい暮らしをさせてしまっていることを案じてもいたので、幸運に恵まれたとも思っていた。
これでいいのだ。
これで――
「お前はほんとうに…これでいいのかい?」
「もちろん。それに私が断れば他の人が犠牲になるわ。私は取り柄もないし何も持ってないから…これでいいの」
「……そうかい…。だがお前に取り得がないなんてとんでもない。お前は村で1番美しくて器量よしだから、選ばれたんだよ」
励ましてくれる両親と一緒に居られるのは今夜まで。
撫子はてきぱきと手を動かして様々な料理を作ると、ささくれ立っている畳の上に並べてにこやかに笑った。
いつの間にか夜になり、時間は刻々と過ぎてゆく。
明日は早朝から迎えがここにやって来ると聞いていたので、せめて今夜は両親が眠たいと言うまで起きていようと釜戸に火を入れた時――外で馬の嘶く声と蹄の音がした。
何事かと戸を開けた撫子は、思いも寄らぬ人物の来訪に顔を強張らせる。
「撫子…と言ったか。ここが…君の家?」
「…は、い…左京…様」
「左京でいい。少し話がしたいから外に出てくれないかな」
柔和な面立ちで、いかにも金持ちという出で立ちと雰囲気の男。
撫子は心配する両親を気遣って戸を閉めて外に出ると、深々と頭を下げた。
「いけません。私は供物の巫女となる身。左京様…もうお会いするのは…」
「私は君に会いに行く。こんなこと、間違っているんだ。人身御供を望む毘沙門天など私は信じない。明日、会いに行く。明日も明後日も」
力強く優しい言葉に、心惹かれる。