優しい手①~戦国:石田三成~【短編集】
朝桃が起きた時にはすでに謙信は起きていて、隣はもぬけの空だった。

どこへ行ったのかと慌てた桃が床の間を出て襖を思いきり開けると、謙信は座椅子に座ってのんびりお茶を飲んでいた。

あからさまにほっとした桃が胸を撫で下ろすと、謙信が自身の胸をとんと叩いて首を傾ける。


「おはよう桃。朝からその格好は私を挑発してるということでいいのかな?」


「え?あ…きゃっ!違うの!違います!すぐ着替えて来ます!」


浴衣の胸元は乱れていてちょっぴちある胸の谷間が見えていたし、裾も捲れていて右脚の太股が露わになっている。

謙信の場合即行動を起こす場合が多いのですぐさま襖をぴったり閉めて薄桃色の着物を四苦八苦しながら着た桃は、深呼吸をして再び襖を開けると謙信と対面。


「あのままで良かったのになあ」


「だ、駄目!謙信さん、今日は朝に出発して夜には例の村の近くに着くようにするんでしょ?」


「うんそうだね、そこで色々調達して私が女装しないと村には入れないからねえ。ばれないように徹底しないと」


「大丈夫だと思うよ、謙信さん女の人みたいに綺麗な顏してるから」


元々現代では“上杉謙信女性説”があった。

そう言われてもおかしくないほどに肌の色は白いし中性的な顔立ちをしているので、幼い頃から男に誘惑されたこともあったという逸話の持ち主だ。


桃がぴったり隣に座ると自然な動作で肩を抱いて、弱点の耳元でこそり。


「私が女子じゃないことは桃が一番よく知っているものね」


「…!そ、そうだけど……ちょ、朝からやめて!耳くすぐったいから!」


「ふふふ」


意地悪な一面を持つ謙信が無邪気に笑い、ぷんすかした桃が叱っていると女中たちが朝餉を運んできた。

その量たるやとても朝餉の量ではないほど大量だったのだが…桃はこれをぺろりと平らげる。

謙信は小食なので桃が食べている姿を見るだけで幸せなことを、桃は知らない。


「わあ、美味しそう!頂きまーす!」


「どうぞ。足りなかったら私の分も食べていいよ」


「駄目!謙信さんは細いんだからもうちょっと太って!」


結局叱られて肩を竦めた謙信は、箸を取って桃のリクエストに応えた。
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