優しい手①~戦国:石田三成~【短編集】
宿屋には大きな風呂があり、家族風呂もあったため、困ったのは…桃だった。


「謙信さん、私お風呂に入って来るね」


「うん、じゃあ行こうか」


「え?どういう意味…」


「どういう意味も何も、そういう意味だよ。家族風呂でしょ?私と桃は夫婦で家族でしょ?」


やばいと思った時はもう時すでに遅し。

ゆったりした動作で立ち上がった謙信は、元々下がった目尻をさらに緩めてにっこり微笑んだ。

戸惑っている桃の肩を抱いて廊下を迷うことなく歩き、露天になっている家族風呂の前に着くと、脱衣所に置いてあった湯着を広げて見せてさらににっこり。


「これを着れば恥ずかしくないでしょ?私も着るから恥ずかしくないよ」


「そ、そうだけど……何もしない…よね?」


「うーん、桃が挑発しなければ。私の妻は奥ゆかしくて可愛いなあ、先に入っているからね」


謙信は流れるような動作で帯を外して着物を脱ぐと、桃はぱっと顔を逸らしてそれを見ないようにした。

そしてお湯の音が聞こえるとようやく顔を上げてため息をつきながら浴衣を脱いで湯着を着ると、謙信はすでに岩で作られた露天風呂に使ってご満悦。


「わあ、おっきーい。すごーい!すごいね、謙信さんっ」


「ちょっと湯が熱いけど気持ちいいよ。早くおいで」


「うんっ」


お湯を軽く身体にかけて早速中に入ると、謙信が言った通りお湯は熱かったがすぐに上せそうな温度ではなく、謙信の隣にぴったり座って眼下に流れている細い川を楽しむ。


「いい宿で良かったね謙信さん」


「そうだね、それに家族風呂があったのは良かった。明日は君だけじゃなくて私も綺麗にならなければいけないから肌を磨いておかないとね」


「謙信さんはもともと肌綺麗でしょ。それが嫌味じゃないんだから謙信さんの場合性質が悪いんだから」


「いや、君の肌の方が綺麗だよ。すべすべしてるしぷにぷにしてるし」


謙信の長い指が肩から腕へとつっと伝っていく。

無性に色っぽく見える謙信からそろそろ離れた桃は、謙信の顔に向けてお湯簿かけると思いきり舌を出して抗議した。


「太ってるって言いたいんでしょ?謙信さんの馬鹿」


「やわらかくて気持ちいいって言ってるんだよ。桃の分からず屋」


言い合いも楽しくて、楽しく夜が更ける。
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