優しい手①~戦国:石田三成~【短編集】
謙信は驚くほど化けたが――桃も負けてはいなかった。

普段は活発な印象があるが、長い付け髪を垂らしてしずしず歩く姿は様になっていて、口を開かなければあるいはしとやかな女に見えるかもしれない。


「旅の途中に姉様の具合が悪くなったんです。どうか一泊させてもらうことはできないでしょうか」


「…確かにそちらの方は具合が悪そうですが…しかしこの村は少々理由がございまして…」


「うぅ…っ」


泊まることを断られそうになった時、謙信が袖で口元を覆いながらよろりとよろめいた。

姿は女性に見えるが背丈は男性だし、じろじろ見られてしまうとばれてしまうかもしれないので、慌てた桃は謙信を庇うようにして抱きしめてまた乞うた。


「お願いします、姉様が…」


「わ、わかりました。ですがこの村には宿屋がありませんので、寺へお泊り下さい。住職には話を通しておきます」


桃は紛うことなき女だし、謙信は大柄だがどこからどう見ても女だ。

背が高いことを苦にしている女は多いので、桃たちを取り囲んでいた女たちは着物を脱がせて女であるかどうかを確認することなく桃たちを村の中へと招き入れた。


「よかったね、謙信さん」


「そうだね、でも気を抜かないように」


袖で顔を隠している謙信の手を引いて案内されるがままに村の奥へ歩いて行くと、ちょうど中央にあたる位置に――大きな寺が建てられていた。

思わず立ち止まった桃は、その寺の隣にひっそりと建てられている小さな墓を見つけて言葉を詰まらせる。


「あ、あれは…」


「…墓だね。でもひとつしかない。私たちには関係ないのかもしれないね」


「あちらが寺です。住職と話をつけて参りますのでこちらでお待ちください」


女たちが離れて行くと、謙信と桃はなるたけ目立たないようにゆっくり墓へ近付く。


…墓石には、何も刻まれていない。

苔がびっしと生えた墓は誰も弔うことはないのか、かなり汚れている印象だった。


「同じ場所に寺が建てられている。ここは…」


謙信が密かに印を結んで瞳を閉じる。

そして謙信にしか聞こえない声は、ひとつの答えを授けた。


「桃…これは私たちの墓だ」


前世と結びつく。
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