優しい手①~戦国:石田三成~【短編集】
苔が生えた墓標――

手入れする者は誰も居ないのか、草も沢山生えていて打ち捨てられているように見えて、胸が痛んだ。


「桃…大丈夫かい?」


「うん……。謙信さん…お墓があるだけまだいいよね?私たち…ちゃんと弔ってもらえたんだよね?」


訊ねたが、謙信はそれに応えずじっと墓標を見つめていた。

謙信がまるで内なる声に問いかけているように感じた桃は、その場で中腰になると墓の回りの草をむしり始めた。


これは自分たちのお墓――

そう考えると居ても立ってもいられず、無心に草をむしっていると、謙信の優しくて大きな手が肩に乗った。


「遺骨はここにあるようだよ。一応は…弔ってもらえたんだろうね」


「私たち…仲を許してもらえなかったもんね。お墓があるだけまだましなんだよ、うん、そうだよきっと」


いつもの明るい笑顔で桃が笑いかけると、謙信はそっと桃の手を握って墓標に触れる。


そうしているうちに、寺から老齢の住職らしき男が出て来ると、謙信を見てぴたりと脚を止めた。


「住職、あちらが具合が悪くなって一宿を求めてきた姉妹で…」


「あ、ああ…では儂が責任を持って寺に預かろう」


「謙信さん、男の人だよ。おじいちゃんだけど」


桃がひそりと声をかけると、ここまで案内をしてくれた女は皆を引き連れて寺から離れた。

それを見送った住職は、糸のような細い瞳で謙信を値踏みするように見ながら近付いてくる。


「おや…ばれたのかな?」


「しっ。私がどうにかするから謙信さんは黙っててっ」


「そちらの方は……上杉謙信公では?」


「!」


先手を打つようにひそりと話しかけてきた住職にぎょっとした桃は、なんとか言い訳をしようと口をあわあわさせた。


「あ、あの…この人は私の姉様で…」


「いつぞやか、春日山城のお膝元の村にてあなた様をお見かけしたことがありまする。何故このような村にそのような格好で?」


「そうか、私を見たことがあるのなら話は早い。ご住職、経緯は中に入れてもらってからでいいかな。ここは人の目があるからね」


「ではこちらへ」


住職が寺の中へ謙信と桃を案内する。


ようやく、たどり着いた。
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