優しい手①~戦国:石田三成~【短編集】
あの日、炎に包まれながら絶命した場。


焦げた匂いすら思い出せそうな寺の中へと一歩入った桃が、口元を押さえて立ち竦んだ。


「どうか私のことは内密に」


「重々承知しておりまする。謙信公…何故このような場所に?」


「ちょっと所縁があってね。ここは…建て直されたのかな?」


「それを何故ご存知で?ここは随分前に一度焼け落ちておりますれば。その際に亡くなった方たちを供養するため建立されたのです」


「そうか…」


女装を解いて桃を傍に座らせた謙信は、平伏している住職に顔をあげるように促す。


「では外の墓は亡くなった者たちを弔うものなんだね?」


「いかにも。ですが…遺骸は見つかっておりませんので、形だけのものなのです」


桃の顔が青白い。

火鉢を引き寄せてやった謙信は、まだ不思議そうにしている住職に桃を紹介した。


「ああ、紹介がまだだったね。こちらは私の正室で、桃という。住職、一泊させていただきたいのだが、いいかな」


「ええもちろんでございます!ですがお忍びとあらば大したおもてなしは…」


「もてなさなくてもいいよ。少し彼女の具合が悪いようだから、ふたりにさせてもらっていいかな」


部屋の中央には、大きな毘沙門天の像。

すすけてほぼ黒くなっているその像は…あの時のものだ。


「桃、大丈夫かい?」


「謙信さん…うん…ごめんなさい…」


ここは、当時の桃がひとり身を犠牲にして逝こうとした場所。


そして、そこに飛び込んだ自分。


「そう…ここだ…」


桃の肩を引き寄せる。

当時の死の間際にしか触れることのできなかった人を。
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