優しい手①~戦国:石田三成~【短編集】
「桃、その装いは目立ってしまうから、違うのにしようか。輿で行く?それとも…」


「クロちゃんに乗りたいから動きやすい格好がいいんだけど…セーラー服じゃ駄目なんだよね?どうしよう」


「うーん、じゃあ、可愛らしい馬乗り袴があるから用意させよう」


準備を進めていると、謙信が襖を開けて女中に何事か命令してから再び襖を閉めてだらりと寝転がった。


幸村や兼続を言いくるめるのは至難の業で、せめて軒猿をと兼続に半泣きで言われるとさすがに断れなかった謙信は、不満たらたら。


「これじゃ桃とふたりきりの旅っていう感じがしないなあ」


「軒猿さんたちは影から守ってくれるんでしょ?だったらふたりきりの旅と同じだよ。それより謙信さん寝転がらないで!準備しないと!」


「君の馬乗り袴が届いてからだよ。ああ、来た来た」


女中が運んできたのは――夢で見たような緋色の中仕切りの袴と真っ白な半着、そして真っ白な羽織だった。

白昼夢でも見たかのような顔をして緋色の袴を抱きしめながら俯いた桃がいつもと様子が違うので、むくりと起き上がった謙信は伸びた髪で顔が見えなかったので耳にかけてやると、目元を和らげた。


「…どうしたの?」


「私…夢を見たの。こんな真っ赤な袴を着た巫女さんの姿で私に何か言ってた。なんかびっくりしちゃって…」


「私たちが訪ねるのを待っているのかもしれないね。さあ、それに着替えて。そうだ、私が着せてあげよう」


あれよあれよという間にまた謙信に浴衣を脱がされて半着と緋色の袴、そして白い袴を羽織った桃を見た謙信は――立ち上がることができずに桃の両手を握ったまま瞬きをも忘れて見惚れていた。


「ああ……私も見たことがある気がする。君のその姿…遥か彼方に見たことがある…」


「謙信さん…早く行こ。早く行きたい」


桃の肩を抱いて私室を出た謙信は、襖を開けてすぐ脇に控えていた三成と幸村の肩を叩いて、珍しく真剣な顔を見せてふたりを驚かせた。


「と、殿……?」


「目的のある旅だ。道中浮かれつつ気を抜くつもりもないから、桃のことは私に任せておくれ」


「はっ、御意にございます!」


「…傷ひとつつけるな」


「はいはい。じゃあそういうことだから、留守は任せたよ」


そして謙信と桃は旅立つ。

はじまりと、おわりの場所へ。
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