恋愛歳時記
土曜日。
本来、私と征司さんの勤める会社は休日だ。

だけど、今、私の目の前で朝食を食べている征司さんはシャツにネクタイ。
このままジャケットを羽織れば、いつもの出勤スタイル。

「征司さん、休日出勤だなんて大変だね。フル出勤なの?」

「フルになるだろうな。午前中に来週アタマの発注依頼まとめて、午後からは東扇島へ新しい倉庫を課長と見に行ってくるから」

「へぇ。ウチの倉庫?」

「そ、手狭でね。とりあえず3月まで契約して、クリスマス、年末年始からホワイトデーまで乗り切る予定」

征司さんが作ってくれたのはちょっと焦げた目玉焼きに、チーズトースト。
普通の6枚切の食パンに、ピザ用のとけるチーズをかけて焼いたもの。
なかなか美味しい。

征司さんは普段料理をしないらしくて、冷蔵庫にはほとんど食材がなく、一段を占めていた缶ビールだけが存在感を示していた。

インスタントのスープもなかったので、ちょっと調査させてもらった結果。
いつ買ったのか不明だけど、かろうじて大丈夫そうなコンソメのキューブと、シンクの横に転がっていた玉ねぎ3個を発見。
これらと、チーズで即席のオニオングラタンスープもどきを作った。

電子レンジとフライパンの力を借りた、なんちゃって飴色玉ねぎはうまい具合にスープに合って。
征司さんは「美味しい」を連発しながら2杯目に突入。

ベッドでの甘い雰囲気は何となく消え去っていて、いつもの私たちの会話にちょっとホッとした。

征司さんのことはかっこいいと思う。
一緒にいて楽しいし、こうしてご飯を食べたり、何気なくおしゃべりするのも好き。
キスだって、抱きしめてくれる腕の強さだって、ローションや整髪料の匂いだって、征司さんの何気ないことにドキドキさせられてる。

でも、どう距離を測っていいのかわからなくて。
あまりに急な展開についていかなくて。
ちょっと置いてけぼりをくっていた私の心が、やっと一息つけた。

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