恋愛歳時記
私と征司さんは大きく括れば『同僚』だ。

2年前に大学を卒業して就職した先は中堅どころの食品を扱う商社。

200名ほどの社員のうち180名は営業部という会社で同じ部署に配属された。
同じ部署といっても第一、第二とある営業部の第二営業部に所属しているだけで、仕事での絡みはほとんどない。
私はいわゆる「営業事務」が主な業務で、征司さんは朝礼に出たら夕方までほとんど社内にいない営業マン。

第1課から第5課まである中で征司さんは第1課、私は第2課。
デスクの島は隣でも、ほとんど話す機会もない。

しかも社内でもダントツの長身・イケメン・独身の征司さんは女性社員たちのあこがれで、新入社員の私なんかが近づくのも恐れ多い存在。

「社内恋愛は絶対にしない」
と公言して、業務以外のコミュニケーションを嫌っている雰囲気なのも拍車をかけて、顔を知ってはいても会話をしたこともなかった。

ところが、ある日、駅でバッタリ会ってしまった。
コンビニでも、家の近所の交差点でも。

住んでいるところが1ブロックしか離れていない、ご近所さんだと知ったのは入社して1か月目のことだった。

挨拶したり、ちょっとした世間話をするようになって知ったこと。

お互い、出身が静岡県、しかも実家は車で5分。
年齢は7歳違いでも、学区はお隣、高校の先輩・後輩。

世間は思ったよりも狭かった。

そんなわけで、会社で先輩に睨まれないように、残業で遅くなったときや会社の飲み会の時には内緒で送ってもらうようになった。

それが約1年前までの私たち。

私には4歳上の兄、2歳下の弟がいるのだが・・・。
兄は私が生まれた時、非常に兄としての使命感に駆られてしまったようで、私が大学進学のため上京してひとり暮らしを始めても、就職して社会人になっても、自分の結婚が決まっても兄バカが治らなかった。

そして去年の11月。

そんな兄が地元の女性と結婚式をあげた。

親バカならぬ兄バカのバカ真一は、義姉の美香さんの親族にまで私について話まくっていて。
結果、私のウワサはディープな親族関係を保つ田舎では行き届いていて・・・。
行き届きすぎて、小さなころのおバカなエピソードからカレシもいなくて寂しい日常生活を送っていることまで全部知られてしまっていた。

そこへもってきて、披露宴でお決まりのあのコーナー!
新郎新婦の生い立ちを写真で振り返る、あのろくでもないコーナー!

バカな兄は海に行った記念の写真として当時幼稚園だった私のおしりが半分見えているビキニ姿を他人様の前にさらし、小学校に上がるまで『お兄ちゃんと結婚する』と言い張っていたエピソードまで暴露した。

穴があったら入りたいとは、このこと。

そして美香さんの親族席には、よく見知った顔がひとつ。

田舎の人間関係は信じられないくらいに狭い世界で成り立っていた。

兄のお嫁さんは征司さんの従妹。

絶対知られたくなかったのに!
会社での私はシッカリ者のお姉さんキャラだったのに!

あんまりにも心配性な兄に感化されたのか、美香さんからお願いがあったのか知らないけれど。

それから征司さんはしょっちゅうメールをくれたり、ごはんを食べに連れて行ってくれるようになった。

私と征司さんは、同僚でご近所さんで、そして義理のイトコ同士。

家族と離れて暮らす私を心配してくれる優しい手に、私は甘えた。
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