sweet milk【完】
あの時は恐ろしくて
声も出なかった。
目は、ずっと開けていた。
閉じる事を忘れるほど、
わけもわからず押さえつけられた。
殺されていく時の気分に
たぶん似ているんじゃないかと、
それは後になって思った。
最中には現実感なんか、まるでなかったから。
他人事のように、乱暴に揺すられる体の動きに合わせて揺れる
天井に向いたあの無様な両足は
本当に私のものだろうか?
胸や首筋を執拗に這う生ぬるい舌は、
本当にあのやさしいキスをした人のものなのだろうか。
・・・・・・・・・本当に?
私がしたかった事は、こんな事じゃない。
私が憧れていた人は、こんな人じゃない。
くり返し、思った。
けれど声にはならず、激しい痛みの行き来にただ
涙だけがあふれた。
何か色々言葉を聞いた気もするけれど憶えていない。
でも一つだけ。
「あ、ぬれてきた。」
こじ開けるように私の中に指を差し入れながら
上の男がつぶやいた
うれしそうなトーンの声を憶えている。