ハートフル・アーツ
「だって…」


「形が変わるものはいくらでもある。

粉や液体、スライム。

力の流れもまた使う人によって変化する。

だが、そこにあるのだ。」

「…。」


「触ってみよ。」

受け皿を差し出す

「ああ。」

水に触れる

「掴んでみよ。」

「ああ。」

水は少量だが幸大の手に収まる


「感じることも触れることも掴むこともできる。


風もそうじゃ。

風の場合は見えてないから掴めんように見えてるだけ。



火なんてものは集合体だからこそああやって見えるが…


お主は水を少量掴み手の中にのこったが火は言ってしまえば熱と空気の塊。

水と違い目に見えんだけで掴もうとすれば掴んどる。」


「でも…」

「でも…水や火、風に攻撃をしてもノーダメージと言いたいのじゃろう?」

「ああ…」

「それが間違いじゃ。

お主が攻撃を受け流すように…それらもまたお主の攻撃を受け流す。


そして、攻撃を当てようとも瞬時に傷口が塞がれる。

だからあたかも無傷に見える。」


「確かに…」


「人を滅すれば死体になる。

やがて塵に。

さらに永き時を経て原子や分子になるであろう?」

「ああ。」

「それは既に人ではない。


水もまた然り。

原子や分子となった水を水とは呼ばぬだろう?」


「まぁ…水素と酸素になるかな。」


「そうなればそれは水とは呼ばぬ。

つまり、水と言う命無き存在が死ぬ。

こう言うことじゃ。」

受け皿を地面に置くと老師は掌底を水に撃ち込む


パァンッ!!


およそ水では滅多に聞くことが無いであろう音

湿度100%の物質が奏でた『乾いた』破裂音

水の死音だ

「水が消えた…」

「そう。

水がわしの攻撃で消滅したんじゃ。」

老師が言う
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