Sweet Heart
ヒーローマン(偽)の言葉に言い返せないお父さんは、無言で立ち上がりどこかへ行った。
「親父、どうしたんだ?」
「どうしたんだろ~?」
楽ちゃんとここちゃんはお父さんの後ろ姿を見ながら言う。
お父さん…今度は何をするつもり?
「努…。すまない!」
「孝史?」
リビングへ戻って来たかと思えば、お父さんはある物を五十嵐さんに差し出した。
そのある物とは…
「たっ、退職届!?」
テレビのドラマなんかで見るような"退職届"と書かれた封筒だった。
「真智が結婚したくないと言った以上、俺は努との約束を果たせない…。
だから俺は責任をとって会社を辞める!」
「ちょっと、お父さん!?」
私は退職届を五十嵐さんに差し出す手を掴んだが
お父さんは一向に手を引こうとしない。
今お父さんが仕事を辞められては困る。
楽ちゃんは今年受験生だし…
ここちゃんは来年小学校に入学するし…
それに食費、光熱費、学費…その他もろもろ、どうやって払えば良いの!?
「そうだな…孝史。残念だけど君には会社を辞めてもらおう…。」
そう言って五十嵐さんは退職届を受け取ろうとした。