不器用上司のアメとムチ
「二人じゃ、ない……?」
駐車場に車を停め、シートベルトを外す京介さんを覗き込む。
彼は驚きのあまり表情を強張らせるあたしに気づいてないかのように、穏やかにこう答える。
「うん。来年うちに入社する女の子を一人呼んである」
「どう、して……?」
知らず知らずのうちに声が震えてしまう。
これは、デートじゃない……
今日のランチには、何か裏があるんだ。
馬鹿なあたしはそのことに、今やっと気がついた。
京介さんはあたしの問いかけに対して、その綺麗な唇からようやく真相を紡ぎ出した。
「彼女は次期“ヒメ”候補なんだ。僕の秘書として、果たしてきみと彼女のどちらが相応しいのか……今日はゆっくり吟味させてもらうよ」
次期“ヒメ”候補……
その言葉を聞いて、もともと脆くてガタガタだったあたしの秘書としての自信が、音を立てて崩れていく。
もしも選ばれなければ……
あたしは、捨てられるの……?