不器用上司のアメとムチ
「森永さんは、子どもを産む機械じゃないのに……」
あたしがぽつりと本音を漏らすと、彼女は「ありがとう」と言って、微笑した。
「私もそんな風に思って泣いた夜もあった。でも、愛する彼のためって思うようにして、つらい治療にも耐えてた。
だけど結果はなかなかついてこなくて……
そんな時にさっき話した同僚が産休から復帰してね。それからはもう、地獄みたいな毎日だったわ。
まず、デスクの上に子供の写真を置くでしょう?休憩中も、もちろん子供の話で1時間が過ぎる。
それにうちの会社って、子どもがまだ小さいうちは16時で退社できたり、有休も取りやすかったりするの。
なんだかそれが理不尽に感じてしまって……子供を授かって幸せいっぱいなくせに、仕事でも楽するなんてって思いが蓄積して……
ある日、それを本人に言ってしまったの。“子供が居ると簡単に仕事さぼれていいわね、あなたの仕事をフォローしてるこっちの苦労も知らないで”――――そんな、思いやりのない一言を」
森永さん……
きっと自分の体のことがなければ言わなかった、冷たすぎる一言。
言われた方もつらいけど、言った森永さんもつらかったんだろうな……
「……なにかマズイことを言ったってのは聞いてたが……そこまでの内容だとはな」
久我さんが、ため息交じりに呟いた。
「その人、なんて返事したんすか?」
壁にもたれながら話を聞いていた佐々木が静かに尋ねる。
「何も……ただ、すごくショックを受けた表情をしてて……それから何週間かして会社を辞めたわ」