不器用上司のアメとムチ

「あたしのメモとペン……!」

「暴れんな、後で拾って届ける」


見知らぬ男はそう言って、長い足でスタスタ歩き出してしまう。

なんなの、この強引な男は……

ちら、とすぐ上にある顔を見上げると、その整った顔立ちにドキンと胸が跳ねた。


京介さんとは種類が違うけど、ものすごいイケメン……

京介さんが白馬の王子なら、この人は……


「……ジロジロ見るな。手ぇ離すぞ」


口も悪いし、魔界の王とか、そんな感じ……


「……聞いてんのか?」

「聞いてますけど、そんなことする気のある人は最初からあたしを助けたりしないと思ったから……」

「……変な奴」


あ、ちょっと笑った。笑顔もなかなか素敵。

もしかして、これって運命の出会い……?


あたしがそんなふわふわした気持ちでいると、いつの間にかもう管理課の前まで来ていた。


「……着いたぞ」

「あ、ありがとうごさいました!」


あたしのお礼は無視して、彼はあたしを降ろすとすぐに踵を返して廊下を引き返してしまう。


「あ、あの、あなたの名前……!!」


あたしがその背中を呼び止めたのと、管理課の扉が開いたのはほぼ同時だった。

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