不器用上司のアメとムチ

退社時間が過ぎると、管理課にはいつもあたしと久我さんだけが残る。

あたしにはもうやることがないけど、久我さんは課長だし、時間通りには帰れない。


それでも一緒に帰りたいから、あたしは先にタイムカードを押して、久我さんの姿を眺めながらぼおっとするのがいつもの日課。


ちょっと作業が落ち着けば、久我さんはこっちに来てあたしにエサを与えに来てくれる。

基本的には飴をくれることが多いけど、疲れてるときなんかはいきなりキスして来たり……どっちにしろ、これから甘い時間が待っているのだ。


さて、そろそろかな……と、あたしが期待しているときだった。

不意に、久我さんのデスクの電話が鳴りだした。


「――はい、管理課久我」


……あーあ。こんな時間に電話してくるなんて誰?

あたしは口を尖らせながら床を蹴り、椅子ごとくるくると回転した。


「おー、いるいる。ちょっと待て。たぶん行くって言うと思う」


久我さんが、あたしを見てる。その電話、あたしも関係あるの?

首を傾げると、受話器を耳から離した久我さんが言う。


「今、開発に柏木の嫁と娘が来てるらしいんだ。会いに行くか?」


え!あのクールな柏木さんが溺愛してる奥さんと娘さんが!?


「行きます行きます!」


即答したあたしを見てふっと笑うと、久我さんは受話器を握り直した。


「聞こえたか?ああ、5分後くらいに行く」


奥さん、美人だろうなぁ……どんな人だろ。

柏木さんがデレデレしてるとこ、見れるかなぁ……

< 242 / 249 >

この作品をシェア

pagetop