おいでよ、嘘つきさん。
翌日、病院の前は異様な雰囲気でした。

町外れにある病院なので、人はあまり訪れないのにこの日は野次馬達が集まりざわついていました。

病院はまだ開いていないのに、殺気立った両親は強く扉を叩き「プラタナスを返せ!」と叫びました。

産婆が扉を開けると、すかさず中に入ってきて「プラタナスは何処だ!」と睨みつけるのです。

野次馬達も、病院内に入ろうとしましたが産婆は冷静に、

「患者の方のみ、お入り下さい。私は産婆ですから男性の診察は専門外です」

と毅然とした態度で言いました。

野次馬達は、「ヤブ医者は仏頂面にだらし無い口元、猫背で陰気な雰囲気」と決め付けていたため、予想外な産婆の姿を見て拍子抜けし、その場に立ちすくむだけでした。

ただ両親だけは殺気立ち、「さぁ!今すぐ返せ!」と繰り返し怒鳴るのです。

「まずは、落ち着いていただかないとプラタナスに会わせる事はできません。」
産婆は尚も強く言いました。

「魔女だ!!」

突然、母親が口にした瞬間、流石に産婆も頭にきて
「貴女こそ!何かに取り付かれてるようだわ!」
と言ってしまいました。
すかさず父親が

「何て恐ろしい事を…!裁判にかけてやる!」

と今にも飛び掛かりそうな勢いで怒鳴りました。

母親は言います。

「貴女が私に魔術をかけた!だから私は取り付かれてるのよ!」

産婆は全く身に覚えがありません。

「12年前、私からプラタナスを取り上げたあの日に魔術をかけたのよ。そして、今も私からプラタナスを取り上げようとしている!」

産婆は頭が混乱してきました。

「私は確かに12年前プラタナスを取り上げましたが、あれは出産ですよ。そんな幸せな時に私が魔術をかけたなんて…。私は産婆です。生命の尊さ、偉大さは誰よりも理解しています。変な言い掛かりは止して下さい」

混乱しながらも、やっとの事で反論しました。

「言い掛かりですって?じゃあ、今のこの状況は何だというの!?私の宝物は奪われたのよ!12年前に、忌まわしい魔術をかけられ、美しく聡明に育ったプラタナスを魔女が手にする事は決まっていたのよ!!」

産婆は何を言っても無駄だと感じ、
「とにかく、プラタナスに会わせますが騒がないように。」
と力が抜けたように言いました。

この両親と話していると、力がするすると引き抜かれ、まるで自分の考えがおかしいかの様に思えてくるから不思議です。

産婆も力が抜けてしまいましたが、魔女と認める訳にはいかないため、プラタナスの部屋へ歩きながら目にもう一度力をいれました。
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