おいでよ、嘘つきさん。
父親は声を失っていましたが、我に返り、

「何を言ってるんだ?どこからどう見てもプラタナスじゃないか。誓いを忘れたのか?」

と母親に凄みます。

「誓いは、プラタナスに対してよ!父親のくせに自分の娘を間違えるなんて。プラタナスを愛していないから騙されるのよ!」

頭に血がのぼった夫婦はお互いを罵りあいました。

「黙れ!私はプラタナスを愛している!お前よりずっとだ!お前こそプラタナスの美しい部分は愛し、愚かな部分は見向きもしない、今回の件についてもだ!」

「まぁ!恐ろしい!娘に愚かな部分ですって?それが愛する娘に使う言葉かしら。まるで呪いの言葉よ、可哀相なプラタナス!私は真実の愛で彼女を守るわ!」

「ふん!真実の愛だと。なら、プラタナスの異変に何故気付かない!何かあれば泣き叫ぶばかりではないか?私は気付いてたぞ!プラタナスの悩みにな!それを、お前は放っておけと言う!理解できん!」

「野蛮な男にプラタナスのような女の子の繊細な悩みが理解できるはずないわ!きっと、ろくでもない考えでしょうよ。町の汚い噂に惑わされた貴方の頭で、私の聡明なプラタナスを汚さないで!」

「何が野蛮だ!町の噂を、嫉妬や恨みだと罵り反感を買うような態度ばかり。終いには、まやかしだと言いだしやがって。それにだ、プラタナスはお前のものではない!好きな男の一人や二人できてもおかしい事ではない!いい加減、目をさませ!」

「プラタナスは私のものよ!あれほど、聡明な子供はいないわ。ふん、結局は男の考えね!下品で野蛮。プラタナスの前では絶対に口にするんじゃないわよ!私だけは信じているの、彼女はいつまでも聡明で純血であり続けると」

「馬鹿馬鹿しい!悪いが、プラタナスはここにいる。プラタナスもしっかりこの話しを聞いてるぞ」

「その子はプラタナスじゃない!!」

あまりの激しい言い合いに産婆は口をはさめずにいました。
すると、今まで黙っていたプラタナスが静かに口を開きました。

「私はプラタナスです」

産婆は今だと思い続けます。
「彼女はプラタナスです。誓いをお忘れにならないで頂きたい。まずは、落ち着いて話し合いましょう」

この言葉に両親は一瞬黙りました。
が、すぐに母親が一言。
「魔女との誓いなど無効です」
と吐き捨てたのです。

今度は産婆は落ち着き、

「魔女ではありません。ただの産婆です。今はプラタナスについてお話したい」と静かに言いました。


「だったらプラタナスを出せ!」
母親は叫びました。


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