そして 君は 恋に落ちた。
「行き先押し忘れてますよ」
鈴木君が笑いながら一階のボタンを押すと、やっとエレベーターが動き出した。
ドア近くに鈴木君。
一番奥にいる私を隠すように、前に松田君が立つ。
「松田先輩も今日は残業無いんですか?」
「いや、まだ残ってる。でも…」
言って、私の手を後ろ向きで握る彼。
「大切な用があるから今日はすぐ終わらせる」
そう言い終わった瞬間、握った手にさらに力が入った。
「デートですか?」の質問に、ははっと笑って流した彼。一階に到着すると、ゆっくり手を離した。
それに寒さを感じてしまい、今度は私の手が彼の手を追う。
それと同時にゆっくりドアが開き、目の前の女の子が目を見開いた。
「松田君!」
その子は、安心したように微笑んで、
「この間の指輪が来たって!
今日一緒に取りに行こう?」
そう、言った。
「え?…えっ?」
ドア前に立つ鈴木君は見てはいけないモノを見てしまった!と、交互に二人を見て慌てる。
私は伸ばした手を握り締め、鞄を持ち替えた。
そして松田君の後ろから前に体を出すと、「お疲れ様。お先に」と声を掛けエレベーターを後にした。
.