そして 君は 恋に落ちた。



「……何で泣いたの?」



私の言葉を無視して涙の痕をなぞるように、ゆっくり頬を滑らせた彼の手。

それから逃げるように顔を背けた。



「……帰る」


落とした鞄を拾い、はだけたコートを直し最後、彼を見た。

彼は、壁により掛かり腕を組んで黙って見ていた。


瞳が、また熱を帯びていく―――…



「お邪魔しました。

 ……また来週ね」


言いながら、なんとか広角を上げ笑ってるように装う私を、黙って見つめたままの彼。


私はそのまま扉を開け、外に出た。










カツカツと軽快なヒールの音を響かせエレベーターに向かう。


エレベーターは上の階からすぐに来た。

それに乗り込み、扉が閉まると同時に、体から力が抜けた。


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