梅林賀琉
日本昔ばなしに出てくる山姥が今にも襲ってきそうなあの厠の絵をそのまま三次元に再現したと言っていいだろう。



丁度その厠の戸を塞ぐようにして大きな海亀が立ちはだかっていたのである。



ガラパゴス諸島に棲息しているゾウガメほどの大きさはあろうか。しかし、ゾウガメほど長くない首と鰭のような足はどちらかというと海亀にみえた。



ぼくは海亀と言ったらアオウミガメぐらいしか知らないので、きっと大型のアオウミガメなんだろうぐらいに思っていた。その海亀はぼくに向かって何の前ふりもなく、藪から棒に訊ねてきたのである。



「あなたが浦島太郎様ですね」


「それは人違いであろう。それがしは梅林孝文が嫡男梅林孝哉である」



その時ぼくは何のことかよくわからなかったが、無意識のうちに時代劇や大河ドラマで使うようなセリフを発していたのである。



しかし、ぼくは自分のこのしゃべり方の異変に気づいておらず、何食わぬ顔でそこに立っていた。



すると、海亀は得心のいった顔で頷いた。



「やはり、そうで御座いましたか」



ぼくは海亀の言った言葉の「そう」にどうも含みがあるとみて、その部分を明らかにするべく問うた。



「そちは今、そうで御座いましたかと申したな。何ゆえじゃ」
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