形見


「今日はもう、部屋に戻るか?」



「……要と、裏で蛍捕まえたい」



「ん、蛍な。いっぱい捕まえて、蚊帳の中に放そうか」




要が首に腕を絡めると同時に、十希は要を抱き上げた。







最後にふいと振り向いた庭に、男が一人立っていた。





もちろん、庭にはたくさんの村人がいる。



だがその男の姿が、奇妙に要の印象に残った。



村人にはない雰囲気を持ったその男は、要たちを射抜くような眼差しで見ていた。





「――嫌なのがいる」




十希が低い声で言ったのと、背を這った寒気に要が十希にきつく腕を回したのと。



同時だったのは、偶然だろうか。



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