オジサンが欲しい
高く澄みきった少女の声が、不気味な小唄を歌いながら近づいてくる。
床を踏みしめる足音は台所あたりで止まり、冷蔵庫を開ける音がかすかに聞こえた。
寺尾の目に、冷蔵庫の前に立つ少女の姿が映る。
ゴスロリ系の服に、フリルの付いたスカートを穿いた黒髪の少女だった。
ロリータファッション、というべきなのか。
顔は見えないが、体格からして中高生であることが解る。
「ああ、たまらないね。
君の血を舐り、啜ると、かすかに甘い蜜の味。
君は世界に一つだけ。
僕だけの……」
そこで、歌が止まった。
冷蔵庫が閉められ、少女が静々とこちらに歩み寄る。
正面を向いた少女の顔が、露わになった。
寺尾は愕然とする。
「君は……」
寺尾は芋虫のように転がされながらも、首をもたげて少女を見上げた。
いつぞやコンビニを訪れた、あの少女だった。
母校の生徒というだけに、印象に残っていたから覚えている。
「おはようございます。
やっと起きたんですね?」
少女は眩い笑顔でそう微笑んだ。