オジサンが欲しい
「寺尾荘一(しょういち)さんですね。
うちの学校のOBの」
少女はしゃがみこむと、首をもたげた寺尾の顎に、そっと手を添える。
「やっぱり、いつみても、あなたの容姿は儚く美しい」
そうぽつりと呟き、少女は寺尾のそばに腰をおろした。
「うちの学校に、創業当時からの卒業アルバムが保管されてるんですよ。
私はあれを漁って見るのが好きでしてね。
そうしたら、平成十三年の卒業アルバムで、あなたの写真を見つけたんです」
悠々と髪をいじりながら、さも楽しげに話す少女であった。
しかし、縄を解いてくれる様子はない。
(この子が、やったのか?)
寺尾は、一向に自分を助けてくれる様子のない少女に、そんな疑惑をかける。
そんな寺尾の心情を知ってか知らずか、少女は柔らかな笑みを浮かべていた。
「なんかいいとこの会社に就職したって聞いたんですけど、そこの会社、潰れたんですよね。
で、そのあとは近くのコンビニで契約社員を……」
「……君か……?」
寺尾は首が疲れてきた。
いったん床に顎をつけて、ぐったりとした声色で訊く。
「君が……僕を縄で……?」
「ああ、それ私ですよ」
少女は戸惑うそぶりも見せず即答した。
そのあまりの即答ぶりに、寺尾は開いた口が塞がらなかった。
「……親父狩りのつもりなら、ここで見逃してくれないかな?
僕はほんとに、全くなにも……」
「親父狩り?」
そのとき、少女は一段と声を高くする。
若干怒りを孕んだ語調で、少女は寺尾の顔のまえに手をつく。
「親父狩りなんて、そんな野蛮なことなんかしませんよ。
私が欲しかったのは、あなた自身なんだから」