私は彼に愛されているらしい2
「東芝さんって人気有りますもんね。」

人気の理由はルックスだけじゃない筈だ、そう思うと東芝を見つめる眼差しも次第に熱を持っていくのが分かった。

もう目の前にいる筈の沢渡は障害物を通り越して居ないものに等しい。

「…はあ。俺、余計なこと言っちゃったのかも。」

「え?」

「なんでもない。んじゃね。」

起ち上がった端末を放置して沢渡は荷物を抱え大部屋から出て行ってしまった。

言葉と行動の意味が分からず有紗は呆然と沢渡の去った方角を見つめている。

「あ、ここ空いてる?」

「え?あ、はい。多分…。」

曖昧な言い方に相手が困っていることに気が付くと有紗は急いで笑顔を作り直した。

おそらく沢渡はもうこの端末には戻ってこないだろう。

「空いてます。どうぞ。」

隣の席に座る人物に沢渡の姿を重ねてまた思った。

それでも脳裏をかすめたのは大輔の言葉だ。さっき沢渡から聞いた言葉は大輔のものとよく似ていたのだと有紗は気が付いた。

このところの不可解な胸のざわめきがまた暴れ出したようで胸の辺りを掴み取る。

沢渡の残した言葉は有紗の中で深くくすぶることになったのだ。


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