私は彼に愛されているらしい2
「…え?」

それはどこかで聞いたような言葉だった。

「東芝さんが好きだから彼氏が出来なかったんじゃないかってさ。」

「私が、ですか?」

そう言って少し離れた場所にいる東芝を見つめる。

一人で黙々と自席のパソコンに打ち込んでいる顔はいつも通り表情がない、そんな東芝を見つめて思った。

歩いていても人と話していても感情を豊かに出すタイプじゃない東芝は整った顔で流れるように毒を吐く、よく言えば仕事中の無駄は殆どない素晴らしい人物だ。

それ故に他人には厳しい。

少しでも手を抜いてやりたい人とはあまり合わないという話もよく聞くが、東芝だって何から何まできっちりやるガチガチなタイプで無いのは近くに居ればよく分かることだった。

要は力の抜きどころが違うということなのだがあまり理解されにくいところなのだろうと以前君塚が言っていたことを思い出す。

特に同僚や部下からは分かりにくいのだと。尊敬される反面、嫌われることも少なくないのだと。

でも。

「尊敬だけで…恋愛感情はありませんでした、よね。」

「…なに、その曖昧な回答。」

「いや…そうやって考えてみたこともなかったので考えてみてるんです。」

でもたまに見せる優しい眼差し、決して見下さない姿勢、どこまでも真面目に仕事に向き合う真摯さ。

あれでいて有紗のことを気遣い可愛がってくれていることは有紗自身が一番よく分かっている。

そんな東芝を有紗は自分の気が付いていない深いところでどう見ていたのだろうか。

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