私は彼に愛されているらしい2
憤慨して声を荒立てる西島と秋吉に対し有紗は冷静だった、というよりも静かな怒りの炎を秘めていたという方が正しい。

それは彼女の目の中の光に表れていた。

射抜くようにまっすぐ向けられた視線はいつも以上に力を持っている。

「何言ってるんです?舞さんがいなくちゃ仕事が進まないなんて当たり前でしょ?それがあの人の力なんですよ。自分で築いた信頼と技術なんです。」

有紗の言葉に鼻で笑ったのは秋吉だった。

「ただの開き直りじゃない。」

「先輩方は一体何ができるんですか?」

「今度は逆ギレ?」

余裕の笑みを浮かべて腕を組んだ西島は秋吉に相手を任せたらしく黙って笑みを浮かべるだけになった。

既に自分たちの勝ちだと過信しているのかもしれない、しかし有紗は表情を変えずに淡々と言葉のやりとりを続けていく。

「コピーしか出来ない?社内便を配ることしか出来ない?そんな事ないですよね、先輩方…とくに西島先輩は頭がいいですから。」

有紗は視線だけ西島に移せば、笑みを浮かべていた西島は目を細めて不機嫌な様子に変わった。

「馬鹿にしてる訳?国立大出身の持田さんから見れば地元のバカ短大卒は比較対象にもならないでしょ。」

「学歴の話じゃないですよ。学歴で私に勝てる相手はそうそういません。そうじゃなくて西島先輩は頭の使い方が上手いって言ってるんです。」

興味を持ったのか西島も秋吉も静かに有紗の次の言葉を待つ。

「馬鹿に集団を作ってまとめることは出来ません。コピーも社内便配布も誰でも出来る仕事です、設計だって誰にでも出来る仕事ですよ。」

「いや、無理でしょ。」

「いいえ、出来ます。この図面を見て先輩ならどこに線を引けばうまく道が作れるか、分かりますよね?」

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