私は彼に愛されているらしい2
優しくて友達思いで、でも断るときはちゃんと断れる大輔の行動に皆が信頼していた。勿論それは有紗も変わらない。

大輔がここにいてくれるのは彼にとって負担ではないと甘えることが出来る。

それを思い出して有紗は静かに瞼を閉じた。ページをめくる音が優しく耳に入って心地いい、まるで眠りに誘われるようだと考えている内に意識を閉じていった。

間もなく聞こえてきた規則正しい寝息に顔を上げて大輔は有紗の寝顔を見つめる。

愛おしいものを見つめる表情はどこまでも優しい、大輔は幸せな気持ちを噛みしめながら視線を本に戻して手元の世界に入り込んでいった。

次に有紗が目を覚ましたのは翌朝のこと。

すっかり熱も下がった有紗に安心した大輔は任務完了と告げて何する訳でもなく帰って行った。

彼らしい態度に笑う有紗だったが、散々鳴っていたであろう携帯を見つめて凍り付く。

「もしもし!?ちょっと有紗!なんで返事してこないのよ!」

電話をかけて1コールしない内に鳴り響く甲高い声は病み上がりの体にはきつかった。

「聞いてんの!?」

「…聞いてる。ごめん、千春。ちょっと熱出して倒れてた。」

「え、熱?…ちょっとちょっと大丈夫なの?」

怒りを露わにしていた千春も有紗の話を聞いた瞬間に穏やかになり、それどころか寄り添う様な声をだして有紗の病状を窺う。

あまりの変わりように有紗は彼女らしいと微笑んで答えた。

「うん。昨日は地獄だったけど今朝にはもう下がった。でもごめん、急で悪いんだけど今日は…。」

「無し無し!熱が下がったからって出かけたらぶり返しちゃうよ!今日は大人しく家で休んでて!」

本当なら今日の午後からランチを含めて千春とショッピングに出かける予定だったのだ。時刻は既に待ち合わせ時間の1時間前を切っている、ドタキャン状態にも関わらず千春は真っ先に有紗の体を優先して断りを許した。

「ありがと、千春。」

「ううん。そんなことより何か買って持ってこうか?」

「大丈夫、揃ってる。本当にごめんね?」

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