ノスタルジア~喫茶店を訪ねて~

②ある家族の残像

 引越し業者が、閑散とした住宅街を通って、自宅前に停まった。母は、トラックから降りてきた業者に頭を下げて、家に案内する。下の階から引越し業者の足音、声、がどたどたと響くと、今度は2階の階段を上り始めた。その騒がしい音は、自分の部屋を素通りし、奥の妹・和奈の部屋に向かう。
 窓の下から覗くと、まるで蟻の行列のように、いろんなものがトラックに運ばれていく。家具、ベット、書棚、ダンボール。二人分の荷物のはずなのに、たくさんだなとぼんやり考えていた。
 『女は、いろいろ入り用なのよ』
 そういえば、昔あったな。母と妹がデパートのバーゲンセールで、大量に服を買ってきて、父と俺は服なんてそんなに要らないだろうとあきれていった時、母と妹は顔を合わせ、茶目っ気な目でそう弁明したのだった。
 あの時はまだ家族の仲が良かった。いつからだろうか。家族で会話をしなくなったのは。
 食事をしていても、テレビを見ていても、何もかも気まずかった。俺はよく学校や、友達の家に逃避していた。家に帰ると、母が黙ってため息を着きながら、自室に籠った。
 父は、平日は夜遅くに帰って、朝早く会社に出かける。休日は接待ゴルフやら何かと理由をつけて家にはいなかった。
そして妹は、隣の自室でよくひっそりと泣いていた。
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