エリートなあなたとの密約
視線を正面へと戻した私は、「よしっ!」と声に出し、再びステアリングをキュッと握る。
さらにもう一度、サイドやバックミラーの位置は大丈夫なのか目視も忘れずに。
ようやくドライブに切り替えて、アクセル・ペダルにそっと足を置いて発進させながら言った。
「……たまには頼って欲しいな?」
暫くすると、暗闇と夜の光が融合した幹線道路へと進入した。そこで、フッと諦めたような小さい笑い声が車内に響く。
「真帆がいないと駄目な男なんだけどね」
バリトンの甘い声音が不安な心を宥めるように聞こえて。その優しさに触れる度、いつだって頬が緩んでしまう。
「私だって、愛してますよ?」
「じゃあ、このあと教えてくれる?」
「でも、まずは安全運転で帰宅が第一目標だよ?」
「……大丈夫、だよな?」
そこでこの状況を思い出したかのように、ふと声色が変化した修平。
「失礼ね!」とお小言も忘れずに返したあとは、ふたりで笑い合う。走行する車のいくつもの光に混ざりながら、まっすぐ前に進む。
彼が抱えているものを慮ることは難しい。だったら、修平バカは今この時をどう生きようかと思案していくほうが良いの。
——あなたのお陰で私は幸せだ、とありのままに伝えることも忘れずにね……?


