エリートなあなたとの密約
別部署とのミーティングを終えて戻ってくると、松岡さんは別部署との打合せが入っていたので席を外していた。
また構造課の面々も通常通りほぼ出払っていて、密度の少ないデスクに腰を下ろしたところに携帯電話が鳴る。
通話相手は先ほどまで打合せをしていたうちのひとりで、用件は渡しそびれた資料をPDFでメール送信済と訂正事項の最終確認だった。
手短に電話を終えてすぐさまPCから件(くだん)のメールを受信し、それをチーム全員に転送して他のメールも見ていく。
「吉川さーん」
「はい?」
「すみません、ご相談したいことが……」
「了解です。いま行きますね」
10数件のうち優先されるクライアント宛の返信メールを作成中、甘撫で声が耳に届いてまた席を立つ。
こういう時は部下が上司の元へ赴くのが常識だけれど、この部署では上司が動いて解決することの方が断然多い。
もちろんケース・バイ・ケースではあるものの、現在の役職者はどんな時でもフットワークを軽くという、かつての伊藤相談役の姿勢に共感しているからだろう。
修平にしても松岡さんにしてもそう。だからこそ周囲から信頼され、部下たちは安心して取り組める環境が出来上がったと私も思う。
足早に声主の元へ向えば、「すみません」と立ち上がって頭を下げられた。それは斜め向かいの席に座る、SJ社へ入社して1年目の奥村さんという女性だ。