エリートなあなたとの密約
ただでさえ女性の少ないこの部署において、久しぶりに若い新人さんが入って周囲の反応は嬉々としていたことは記憶に新しい。
胸元まで長さのあるミルクティ色の巻き髪も仕事中はきちんと束ね、人形のようなつけ睫毛がトレードマークの彼女。いつも明るい笑顔が評判の、まさにイマドキ女子である。
そんな彼女に小さく首を振って笑うと、改めて「どうしたの?」と用件を尋ねた。
「先日A社の担当者から価格の折り合いがつかないって一度はキャンセルされた例の件ですけど、再依頼が来たんです。
そしたらいきなりこの納期ってどう思います!?あり得ませんよ!」
いつもの声とは打って変わり、憤慨したように口を尖らせる奥村さんのPC画面をのぞき込む。
原因であろうメールの文面を一読すれば一目瞭然。――奥村さんが新人の女だから、と足元を見ているのは明白。
いつもの笑顔がすっかり消え失せている彼女に、「そうだね」と宥めるように頷いて微笑んでみせた。
仕事中に苛立ちを表に出すのはかえって損に働く場合が多いので良くないのだけれど、これは体感して学ぶこと。
だけれど若い頃は血気盛んだし、先輩として彼女らの志気に触れるのは嬉しくもある。かくいう私も昔、松岡さんたちには今以上に迷惑を掛けていたなと省みるばかりだ。