エリートなあなたとの密約
さらには悔しいことに、彼女のように女性だからというだけで幾度となく理不尽な目に遭うこともある。でも、そこで負けてなどいられない。
「……ええ、それでですね。ご希望までの時間も差し迫っておりますので、大変急ではありますが本日のご都合は如何でしょうか?是非とも直接ご相談させては頂けませんでしょうか?
直ちに3Dプリンターでサンプル品を作成しますので、それを持参のうえ担当の奥村と共にお伺いしたいのですが……」
クライアントとの会話が進むにつれて、ポカンと口を開けていた彼女に視線を送る。そこでようやく意図を理解したのか、慌てた様子で賑わしいフロアを駆けて行った。
「――では18時ですね?ありがとうございます。はい、よろしくお願いいたします」と、色よい返事を聞いてその電話を終えた。
ちなみに私の担当は本社専属のAグループ。但し、役職者にとってカテゴライズはあまり重要なものではない。
課内では臨機応変に対応し、フットワークは常に軽くが前提だから。かつて自身もそうだったように、課内で後輩が困っていたら出来うる限りはフォローしていきたいと思う。
右も左も分からず、がむしゃらに突き進むばかりだった新人の頃、松岡さんたちがここぞという場面で手を差し伸べてくれたように。