エリートなあなたとの密約


彼女の苛立ちが収まったところで姿勢を正す頃にはもう、頭の中のそろばんを弾いておおまかな日程の算出が出来ていた。


「奥村さん。今すぐ担当の方に連絡して下さい」

「え?」と、きょとんとする彼女に再び穏やかに微笑んでみせる。

「担当者が出たら直ぐ私に代わってね」

今だにその意味を図りかねているらしく、「はい」と腑に落ちないといった様子で受話器を手に取った。


そうして少しのやり取りで担当者に繋がったのか、彼女は保留ボタンを押したのち受話器を差し出してくる。


私は「ありがとう」とそれを受け取って通話ボタンを押し、笑顔を浮かべながら電話越しの相手に声を掛けた。


「お電話代わりました、吉川です。はい、ご無沙汰しております。
とんでもございません、こちらこそいつも大変お世話になっております」

この間に隣からは心配そうな視線を感じていたものの、敢えてそれには構うことなく会話を重ねていく。


試作の場合、クライアントとの関係が密になるのは当然のこと。ううん、どの部署においても節度を持って、相手と上手く付き合うのがセオリーである。


だからこそ、仕事を受ける以前から不快感を持った状態では物事が円滑に進まないのは明白。まして、スピード勝負の部署ではそれが如実に表れてしまう。



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