エリートなあなたとの密約
――まるで私が席を外すのを待っていたかのように。
「先輩ドSー」と笑って返した奥村さん。でも、彼女の性格上きっと無理して笑っていたに違いない。
ただ、私が一方を庇ったりフォローするのはまた違う。松岡さんの叱咤は、社会人として至極当然のものだから。
しかし、同じ女性として彼女の心中を察すると忠告なんて出来る訳もない。
恋愛沙汰を持ち出したタイミングが非常に拙かっただけで、彼女の想いは確かなものだから。
それに何より、さっきの談笑が彼女を焚きつけてしまったはずだと省みるばかり。
――いくら仲の良い上司と部下と言っても、一般的に見れば親密なものに映るはず。
結局どうにも出来ずに後味悪く試作部のドアを閉めると、私は扉を背にふぅと小さく深呼吸をした。
そして直ぐに夕闇に踏み込んだような窓の向こうの景色を見ながら、廊下をひとりとぼとぼ歩いて行く。
奥村さんを我慢ならなくさせた原因は明らかに私。ただ他人の告白現場に居合わせる身にもなって欲しい、とうだうだ考えつつ……。