エリートなあなたとの密約
自席について不在中に届いたメール処理をしていたところ、スマホが着信を告げる。
その電話主は後輩くんで、研究室に来て貰えないかととても申し訳なさそうに尋ねてきた。
ふたつ返事で了承すると、松岡さんに研究室に向かうと告げて再び部署をあとにした。
構造課の研究室は、試作部のオフィスを出て南側の位置する。最新設備と様々な研究・開発成果を守るために、万全のセキュリティが施されていた。
そこは閉鎖的な佇まいながら、仕事に没頭出来るので研究者には居心地が良いと評判。また研究室もオフィス同様に、ICカードや指紋認証、暗証番号を入力して頑丈な扉が解錠される仕組みだ。
もちろん中からドアを開けて貰うことも可能。けれど、室内に誰を招いたのか等の履歴を残す必要があるため、結局はみな自身で外からセキュリティ解除する方を選んでしまう。
「吉川さん、本当にすみません!」
「ううん、気にしないで」と後輩くんに笑いかけると、研究室のドアをそっと閉めて奥へと進んでいく。
彼の表情から見ても、ここに呼ばれた理由は明らかだった。——研究室にいたもうひとりの人物、奥村さんであると。
私が入室していることには気づいているはずなのに、器具を触りながらそ知らぬ様子の彼女に近づいた。
「お疲れさま」と、さっき以上の笑顔をもって。