禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~



足の拘束だけ解かれたアンは、腕に括られた縄の端をヨークに引っ張られながらギルブルク城の中を進んだ。

当然、自分を囲む四方には兵がアンを逃がすことなど無いよう配備している。

逃げ出すのは簡単では無いようだと、アンは薄暗い石造りの廊下をじっくり歩き進めた。


「逃げようなんて考えんなよ。なーに、別に獲って食おうってワケじゃねえ。簡単な仕事をしてもらえりゃいいんだからよ」


キョロキョロと瞳だけ動かして脱出の機会を窺っていたアンに、それを見透かしたヨークの声が掛かる。


「俺が渡す本の一文を読み上げりゃいい、簡単な仕事だ」


歩みを遅らせ隣に並んだヨークがそう話したが、アンはただ無言で眉間に力を籠めた。


「…死んでもやるか、って顔してんな」


その顔を見て、ヨークが呆れた表情を浮かべる。


「気の強い女は嫌いじゃないぜ。けど、陛下の前で駄々こねられても困るんでな」

そう言うや否や、ヨークは持っていた縄をグイと強く引くと、足の縺れたアンに構わず手近な部屋へと突然入っていった。


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