禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
後ろ手を縛られたまま冷たい石畳の床に転がされて、アンは覚めない悪夢を見ているような頭でぼんやりと考えた。
―――………兄さん…………兄さんに、会いたい……―――
どんなに厳しい事を言われてもいい。どんなに冷たい態度をとられてもいい。リヲに会いたい。
思考が全て止まってしまったアンの頭を、リヲの姿が埋め尽くす。
第一騎士団団長の鎧とマントを身に纏った凛々しい姿が。団員達を見守る厳しくも力強い黒橡の瞳が。月明かりに照らされた眩い銀の髪が。幼い頃から変わらない切なくて淋しげな横顔が。
いつも、触れてはいけないものの様に躊躇いながらそっと『アン』と呼ぶ声が。
―――………会いたい………―――
アンの頬を無意識に涙が伝い、その雫は音もなく冷たい床へと染みていった。
どうして、私たちは兄妹で騎士なんだろう。
こんな運命、望んではいなかった。国で一番の騎士の地位も、聖女の称号も、名門の家督も何もいらない。
ただ、大好きなあの人と一緒にいたかった。それだけなのに。
アンは自分の運命を呪った。
“神に愛された子”。そんな呼び名はいらない。自分が愛されたかったのはリヲただ一人なのに。それはそんなにも罪深い願いだったのか。こんな過酷な運命を背負わされ引き離される程に。と。
幼い頃からずっと、リヲは夜に似ていると思っていた。静寂と神秘の夜に。
物心ついた時からアンはそんな彼に惹かれていた。兄と妹と言う立場を理解するもっと前に。
知りたい。その淋しげな横顔が何を憂いてるのか。切れ長で涼しげな瞳がどんな風に綻ぶのか。
まるで夜の闇のように何もかも分からなくて、けれど内に秘めた妖しさにどうしようもなく心が狂わされる。
その感情の意味さえ分からず、アンは幼い頃から胸を焦がし続けた。