禁恋~純潔の聖女と騎士団長の歪な愛~
ーーーリヲが、アルカレードを出発して数時間が経った。
落とした右腕の切り口はすでに感覚を失くし、気付けの薬を途中で何回も飲んだものの、多量の出血で頭が朦朧としてくる。
それでもリヲは全速力で馬を走らせる事を止めはしなかった。
そして、陽が上る直前になんとか彼らは目標のギルブルクへと辿り着く事が出来た。
「警備が一番手薄になる時間ですね。運が良かった」
手引きの者が城下町の地下水路を通って城までの案内をしながら言った。
リヲはそれに頷きながら、絶え絶えになっていく自分の息を必死で整える。
やがて、城の下の地下水路にまで辿り着くと、手引きのものは梯子を上り自分の頭の上の床をコツコツとノックした。
わずかな時間の後、ゆっくりとその床が開かれ「こっちです」と小声で指示する声が聞こえた。
「城の中にも一人こちらの密偵を忍び込ませてあります。我々は逃路を確保すべくここで待機していますので、後は彼に従って下さい。アン様の牢はすぐ近くの筈です」
手引きの男の言葉に頷いてリヲは梯子を上り、辺りを警戒しながら地下牢の並ぶ廊下へと身体を出した。
ギルブルク兵の鎧に身を包んだ密偵の者がリヲに向かって頷き、アンの牢へと導く。
それに黙って着いて行ったリヲは、密偵が足を止め「ここです」と小声で言った牢の方を向き……息を呑んだ。
「………アン………!!!」
声にならない声で、リヲは叫んだ。
彼の目に映ったのは……あまりにも痛ましいアンの姿だった。
ベッドに横たわったまま死んだ様に寝ているアンは、リヲの知っている生命力溢れる乙女ではなく。
太陽色の髪はすっかり艶をなくし、健康そのものであった肌も土気色にくすんでいた。
服と呼ぶにはあまりにもみすぼらしい格好をさせられ、痩せこけた顔に、身体に、醜悪な汚れがこびりついている。
抵抗した跡なのか、手首には縛られた跡が内出血となって痛々しく残っていた。
生気を無くし、溌剌さの面影さえなくなった少女は
ただ、それでも哀しいことに、美しかった。